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2008年2月16日 (土)

マクドナルドの残業料未払い問題とチェーンストア

 2月11日、NHKのニュースで「名ばかり店長110番」という相談窓口が何人かの弁護士によって開設され、多くの問合せが相次いでいると報じた。
 1月28日、東京地裁が日本マクドナルドの現職店長が「店長が管理職とみなされ、残業代が払われないのは違法だ」と裁判を起こしたことに対して、原告の主張を認め、残業料などの支払いを命ずる判決を出した。
 日本マクドナルドは、1971年7月に東京・銀座三越の1階中央通に面して1号店をオープンした。それから35有余年、今では約3750店、連結売上高3950億円を計上し、全国くまなくと言っていいほど、店はあり、「ハンバーガーと言えばマクドナルド」と言われるくらい人口に膾炙している。当然のように、新聞、テレビ、雑誌など多くのマスメディアがこの判決を取り上げた。日本マクドナルドはこの判決を不服として控訴するというから決着はまだ先だろうが、小売・飲食の関連企業は大きな衝撃を受けた。
 セブン&イレブンは3月から直営店の店長に対して管理職のまま、残業料を支払う方針を固めた。管理職と残業料は不可分の関係になっている場合がほとんどだ。管理職という定義は法的にはない。マクドナルドと同じような店長の残業料の取り扱いについては、昨年7月4日に毎日新聞が「コナカに是正指導」の見出しと共に、「社員4割 店長 残業代免れる」という小見出しをつけて、横浜西労働基準監督署が残業料の未払いに当たると是正指導をしたという記事が掲載されている。
 
 会社は誰のものか ― 古くて新しい問題がいつも提起されるが、最近では「会社は株主のもの」という声が圧倒的に大きくなった。ステークホルダー=株主になってしまっている。多くの経営者は企業価値をどう高めるかが最大の関心事になっている。この企業価値は数式によって算出される。その中には発行済株式数×株価もあり、自社の株価をどう高くするかなどがある。
 経営学の基本にステークホルダーとは顧客、従業員、株主、債権者、仕入先、社会、行政機関など経営活動を行う上で利害関係者をいい、その利害関係者に対して経営活動を通してその果実をバランスよく配分するのが経営だと書かれている。だから、多くの会社は経営理念あるいは企業理念、社是などにステークホルダーに対しての我が社の想い、考えを述べ、自らの企業活動の戒めとしてきた。そしてその活動が多くの人たちに安心と信頼を形作り、会社が継続する力の一端になっていたのではないだろうか。
 狂牛病問題でアメリカ産牛肉が輸入できなくなり、窮地に追い込まれた吉野屋の安部修仁社長はこう発言していたのを思い出す。「私たちは安全と安心の両方をお客様の保証しなければならない。安全は科学的に証明できるが、安心はお客様の心の中にある」と―。
 今の企業価値の中には非数値の要素は限りなく少ない。従業員は人件費という非人間的な形に翻訳され、ステークホルダーの枠から零れ落ちている。2006年、三浦 展氏の著書「下流社会」がベストセラーになり、格差という言葉が多くの人の口にのぼり、労使間の大きな問題になってきている。このような中での今回の判決だった。

 店長の管理職問題は以前にもあった。今から25年ほど前の1983年6月15日、ゼンセン同盟の指導によって、当時のチェーンストア専門店企業であったキャビン、鈴屋、やまと、チヨダ、タカキュー、銀座山形屋の6社が労働組合を結成し「専門店ユニオン連合会」が誕生した。これは多くの専門店経営者に大きな衝撃を与えた。今でこそストライキを行う組合はほとんどないが、当時はまだストライキという影に怯える経営者が多かった。会社は店長を管理職として非組合員化に躍起となった。この場合の管理職は今回の労働基準法に基づく管理監督者ではなく、労働組合法に基づく「管理監督者」としての管理職だった。

 小売・飲食業で成長するビジネスモデルにチェーンストアシステムがある。先に書いたマクドナルドも、コナカもそして多くの同業者はこのビジネスモデルを採用している。チェーンストアシステムは本部と店によって形成され、本部は考える頭脳の機能を持ち、店は本部の考えたとおり動く手足となっている。手足が勝手に考えてはいけないのだ。本部は、店がどのように動けば最も効率的かを考え、特別な人でなければできないようなことを、標準化し、専門化し、更に単純化することによって、全くその店に関係ない素人でもすぐできるようにするシステムだ。それはマニュアルとなって急速な出店を可能にしている。だから、どの店に行っても同じような商品構成であり、同じようなサービスを提供する。店の店長が「うちの店はこうした方が良い」などと言い出したらこのシステムは壊れてしまう。昔、こんな話があった。マクドナルドの若いアルバイトの女性が創業者の故藤田伝さんに手紙を出したそうだ。
「お店に、可愛い小学生の子供がよく来ます。その子に今日の学校はどうだったのといった言葉をかけてあげたい。でもマニュアルではそういうことはできません」藤田さんはそれを認め、マニュアルを一部改訂したという。なぜ彼女は店長に言わなかったのだろう。いや多分言ったけれど、店長にはそのことを認める権限がなかったのだろう。余計なことだが、東京・巣鴨のとげ抜き地蔵商店街にある同店はマニュアルが使われていないと聞いたことがある。利用するお客がおばあちゃん、おじいちゃんが多いからだと。行ってみたが、それほど他の店と違わない。こういった話が出るくらいマクドナルドのシステムは強い。

 チェーンストアとはこのように、本部の考えるとおり店が動くことによって成立している。もともとが店長に労働基準法にある「管理監督者」の要件を満たすことは考えにくい。小売・飲食業が売上を伸ばす1つの方法として誰もが考えるのは営業時間の延長だ。多くの郊外のショッピングセンターは午後11時閉店となっている。セブン&イレブンという店名は朝の7時から午後11時まで営業している便利なお店ということから付けられている。しかし今は24時間営業、スーパーマーケットでも24時間営業を行っている店は少なくない。店長には売上高責任あるいは利益高責任がある。しかし、そこで働くスタッフはほとんどパートタイマー、アルバイトで数値責任はない。責任を達成するためには権限が付与されていなければ責任達成はできない。マーケットサイズは停滞ないしは縮小する傾向は小売・飲食業の各店舗では急激ではないが着実に進んで行く。営業時間の延長が安易に実行されているわけではない。マクドナルドは業態の再定義という革新的な方法で時間延長をしている。皮肉ではなく素晴しい会社だ。しかし、そこに人が介在して成立する。月間残業時間が平均で100時間を超える。今の小売・飲食業はほぼ365日営業している。そこでの勤務シフトのしわ寄せはどうしても店長にくる。それぞれの企業が人件費の削減を図れば、間違いなく消費支出の総額は減っていく。合成の誤謬が起こることは当然である。

 日本マクドナルド ホールディングスの経営理念を同社のホームページから見ると次のように書いてある。
  ■会社経営の基本方針
   当社は今後も持株会社としてハンバーガービジネスで培った資産を有効に活用し、経営の効率化と機動性    の強化を通して企業価値の向上を図ることにより、長期的かつ安定的なグループ企業の成長を図りたいと考   えております。
  ■企業の利益配分に関する基本方針
   業績、配当性向、キャッシュフローのバランスを統合的に勘案し、自己資本比率、株主資本比率(ROE)など    の財務指標を妥当な水準に維持しながら安定的な配当の継続を基本に利益還元に務めてまいります。
 持株会社だからこのように株主への思いを経営理念としているのかもしれない。しかし、グループ各社の理念は残念ながらホームページからは見ることはできない。株主を除く他のステークホルダーに対する思いはどこにも出てこない。
 小売・飲食業は、特に多くの範囲の人たちを対象とするチェーン・ストア・システムを採用する企業は、従業員もまた、お客様であることを忘れてはならない。お客様が、特に自店にとって最も大切な従業員であるお客様が、疲れた顔をしていてはならないはずだ。マクドナルドのマーケティングは大変優れているといつも思う。そして、それを4000店舗近い店が実行するマネージメント力は学ぶところがたくさんある。トヨタのカンバン方式のヒントがマクドナルドにあったと聞いている。労働生産性の向上はこの激しい競争の中では必要不可欠の課題だ。しかし、そこで働く従業員の不満が法律違反だという形で噴出するのは問題ではなかろうか。
 簡単ではないが、今までのビジネスモデルを同社が業態の再定義をしたように再構築することによって「わが国の誇れる会社」に一層多くのステークホルダーが集まるのではないかと確信する。
 近いうちに、マクドナルドで素晴しいスタッフの笑顔に接してみたい。
  

 

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コメント

マクドナルド店長の残業代に関する判決についてお書きになっているブログを探していて、こちらを拝見しました。
私のブログでは、「労働基準法の説明」という視点からこの判決について書いています。ご覧いただければ幸いです。

投稿: ニュースで学ぶコンプライアンス | 2008年3月 8日 (土) 23時55分

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